新居昭乃がインタビュー!柚楽弥衣『惑星JUWEL』について(後編)

2015年7月、新居昭乃が柚楽弥衣に『惑星JUWEL』についてインタビューしました。
曲ごとのエピソードと、最後にトータルなことを聞いています。
前半は新居昭乃のサイト『Pure Heart Label』、後半はこのbiosphereにて1曲ずつご紹介していきます。
juwel_yayoaki

M07_Defeat
M08_牛は神聖な音を唱える
M09_W.E.G. Apocalypsis
M10_愛の遺伝子
M11_The Lovely Bones

(以下 や=柚楽弥衣 ア=新居昭乃)


M07_Defeat

や「うん、そうだね。イタロって言っていいのかな。B級ホラー映画が大好きだったから、それのエンディングのテイストとかも入れたってかんじ。『Defeat』は、これはバビロニア語によるギルガメッシュ叙事詩※2で、『Defeat』って付けたのは、じつはギルガメッシュが親友のエンキドゥと会う前にある夢を見て、その夢が彼にとってはあまりにも恐ろしい夢だったので、お母さん女神だったので、聞きに行くんだよね。『母上、僕はこんな夢を見たんですけど、どういう夢でしょうか』って。そしたら母上が、これがまた恐ろしい女で(笑)」

や「強いね、シュメールの女たちは。なんか、こんなこと言うんですよ。『いつか男がやって来て、その男にあなたは打ち負かされるだろう。そして女のように泣きすがって許しを請うだろう』 負けたことがないギルガメッシュですから『ひえ~~っ』ってなって(笑) 『Defeat』です」

や「Defeatは英語で、負けるっていうか。すごいDefeatって言葉が好きで。かっけーなぁって感じ。(笑) でもギルガメッシュとエンキドゥは出会って、7日7晩相撲を取ったとかいう説もあって、で、勝負がつかなかったのね。なんでかっていうと、そのエンキドゥって、神々が力をつけすぎたギルガメッシュをなんとかしようとして、ギルガメッシュとまったく同じ力を持つ存在を作り出して、でギルガメッシュを倒すために地上に送ったのがエンキドゥなんだ。おもしろいよね」

や「そう。戦った結果、『おまえやるなー』『おまえもな』みたいな(笑) いわゆる少年マンガ的展開(笑)」

や「お互い顔ボコボコにしながら、血とかペッとか吐き出しながら、『やるなー』ていう(笑)」

や「そうそう。『おまえ強いな』みたいな感じで意気投合してしまって、で、これはいろんな説があるんだけど~、そのエンキドゥも地上に降りてきてすぐ、自分の使命を忘れてしまって、忘れてしまってというより人格がない状態で降りて来たので、村人たちが困ってしまった。ていうのは、最近山とか入って狩りとかしようとすると、なんかすげぇ、つえーヤツが動物を守っていて、山で狩りができないって。そいつは見た目は人間みたいなんだけど、自分のこと動物と思ってるみたいで、まわりに鳥とかむらがったり、鹿とか動物がなついて彼と行動を共にしてて、で、それが自然を守っているので、困った。っていうのを村長に相談に行って、村長は『自分のこと人間と思ってないんだったら、人間だって自覚させればいい』っていうことで、当時神殿に仕える神殿巫女というか、神殿娼婦とも言われてるんだけど、そのひとりに、エンキドゥを誘惑して男にしてやってくれと。恋に落ちさせて人間としての自覚を持たせようって、自分が何者かを知らせようって言って、でエンキドゥのところにひとりの女性を送り込んだところ、見事に洋服も着るようになり、みるみる知性を発揮して、ちゃんとした身なりをするようになり、で、『ハッ!』ってある日、『私が地上に来たのは、じつはある役割がある』と。『あるひとりの男と戦わなくてはいけない』って言って」

や「思い出した。それでウヌグっていうギルガメッシュの国に、都市にやって来て、戦いがはじまるわけですねー。」

や「で、歌の途中で語ってるところがあるんだけど、そこは女神がギルガメッシュに語ってるところです。お母さんが。」

や「そう。あなたは負けるだろうっていうのが『#~*@+X!』みたいな感じでエフェクターがかかってるけど、そこが」

や「で、繰り返して歌ってるところは、『男がやってくる』って言ってますね。『mi-in-di ~』っていうところは『男がやってくる 男が山からやってくる』っていうのを繰り返して言っている歌詞です」

※イタロになってません!(笑)by Yayoi
や「そうそう、イタロディスコがすごい好きで、私ほとんどぜんぶのジャンル好きなんだけど、あんまり難しい音楽って苦手みたいで、イタロってホントにバカみたいなんですよ(笑)なんか、盛り上がればいい、みたいな。 ちょっとキッチュな可愛さもあって、ですごいアホみたいなリフとかが入ってて、」

や「ほめてるんだけどな!笑 なんだろう、キャッチーで単純で、やり過ぎ感満載の、これコテコテ過ぎでしょ、っていうのを本気で入れてるっていうか。かっけぇだろ、みたいな感じで、入れてる。ジャパン、ジャパン、みたいな感じだからね。 80年代の音楽、最近またリバイバルでヒットしてるけど、思い切りのいいリフが信条ですよね。別にこれはそんなに思い切りもよくないんですけど」

や「これはじぶんです。」

や「これまた名越君(*2)にギター弾いてもらってて、最初はもっともっとエレポップぽかったんだけど、名越くんにファイル送って、名越くんが好きにギター弾いてくれて」

や「そうそう」

や「いやぜんぜん。」(笑)

や「シュメール語ていうか、対訳されてるから、シュメール語の音の反対側は英語になってたりするので」

や「サイトだね。いろんな大学のサイトがあって、研究のためにそういうのがあって。 で、歌にしてみようかなーみたいな感じで。最初に作ったのが、たぶんこのギルガメッシュかな。 最初歌のメロディーだけ、1番は即興なんだけど、作って、すぐにギルガメッシュのこと知って、これシュメール語いいんじゃない?って思って、入れたらすごくはまったというか。実際のところどんな発音してるか誰も聞けないからね、本当には。でも私は研究者ではなくって…」

や「そう。私は研究してるひとは素晴らしいと思うし、そういう所に習いに行ったりしたかったんだけど、学閥がすごくあるらしくて。だって解釈それぞれだから」

や「そうなの。響きとしてはバビロニア語よりシュメール語のほうがおもしろいね。歌いやすい。でもシュメール語のヤツは石板が修復不可能なのがけっこうあったので、バビロニア語のほうが物語としてはつながってたりして、でももしかして修復作業どんどん進んでるから、またこの何年かの間に、ね。何万枚とかってあるらしいから、石板が。」

や「そうそうそう。古代世界全体で大ヒットしてるから。古代シュメール語、古代アッカド語、古代バビロニア語、って感じで」

や「そう、アッカディアン。アッカディアンの王にもかっこいいのいるよ、ナラム・シンっていう、めちゃめちゃお気に入りの王様だけど」

や「ナラム・シンはまた無法者で、」

や「そうですね、今度ってことで」(笑)

※1 イタロ・ディスコ
80年代のイタリア発祥なダンスミュージック。細かい事は気にしない感満載。柚楽弥衣の好きなThe CreaturesやDen Harrowなどは日本語のwikiには紹介されていないので、それぞれ捉えてるものが違うかもしれないですね!いまだにベルリンなどでは素敵なパーティがあるみたいです。

※2 ギルガメッシュ叙事詩
古代メソポタミアの王ギルガメッシュの冒険を描いた物語。伝説の人物かと思われていたのですが、発掘調査で実在の人物だということが分かりました。
古代では色々なバージョン、色々なバリエーション、色々な言葉で楽しまれたようです。現代のヒーローものの原型のようなストーリーに古代世界も熱狂していました。人間てあんまり変わってないようです……。


M08_牛は神聖な音を唱える


や「これは夢の中に出てきた曲ですね』

や「うんうん。こういう曲をバンドがやってたんだよね」

や「じぶんも演奏してたような、聞いてたような、感じ。震災のボランティアに行った夜にうなされてたんだよね、私。車酔いとかいろんなのが重なっちゃったみたいで、吐き気が止まらないし何も食べられない。ていうより人事不省みたいになっちゃって。やってはいけないことなんですけど、ボランティアに行った人間が。」

や「なんかみんなの苦しみを身をもって体験したというか…それどころじゃない位大変だったと思うんですけど、被災された方々は…。その時にこの曲が流れてた。うなされていた時に聞いたんだよね。 人間は他の動物と、他の生命とまったく違う部分があって…、他のすべてを持ってるのに、たったひとつ、余計なのかそれとも足りないのかわかんないけど…心というかエゴというか、そういうものだなーっておもって。それが人間たる所以だし人間の素晴らしさでもあり。おもしろいよね」

や「説明しようとするといろいろ言えるんだけど…。人間は他のすべての言葉を知ってて、エゴは言うわけですよ、すべて必要だと。全部ほしい。全部私たちのためにある。これが人間のマインドですよね。地球は自分のために回ってる、宇宙は自分のために存在してるっていうのが根底にあるなーっておもう。エゴが拡大するとそうなるっていうか。」

や「でも生命は生のためにたったひとつの言葉を送ってるんだけど、それはもうすべての動物が知ってるんだけど、人間はその他の言葉をぜんぶ知っているっていうか。自分たちで作り出したとも言えるんだけど。だからそれが見えなくなっちゃってる、わかんない。すべてが与えられてる物なんだけど、自分が作り出したと思うのが人間だから。動物はね、一生目懸命足掻くよ、死ぬ瞬間とかも。でも、死っていうものに対してなんの疑問もなく受け入れるんだけど、人間は寒いのがイヤだから、あったかくしようとするし。それが人間の素晴らしさなんだけど。」


M09_W.E.G. Apocalypsis

や「これも有紀さんがアレンジしてくれたんですけど、OTOTOYで配信されてるミニアルバムの中にはいってるW.E.G、WORLD’S END GARDEN のアポカリプスバージョンということで、詞がやって来て、そして有紀さんにアレンジおねがいして、私が作ったプログラムも残ってるんだけども、大幅にリアレンジしてくれてこういう風になったというか。」

や「そうだね!これも壮大ですね」

や「これは目覚めのことを歌ってるというか。ついにもう重力の底でブラックホールのようになってたところに、ついに、光が…」

や「そうですねー。もう、そうかって。わかったーっていうか。だからすごい自分が奇跡的だってことに気がつくというか。そういう瞬間ってみんなあると思うんですけど。ずっと眠り続けてるんですよね、心がいろいろゴチャゴチャやってて、魂はずっと眠ってるような状態で、まったく真実からかけ離れたところがあるっていうか。それがその瞬間に『嘆きは去った 喜びだけが満ちてゆく』って言ってるんだけど、まぁホントにそういう感じっていうか。」

や「そうですねー。」

や「(笑)ここはあのー、ホント(笑) 『獅の子、 吠えるがいい』って言ってて。『何も恐れるな!愛し子よ!』っていう、その通りで~ございます。これも私のテーマでもあるんだけど、みんな喜びは取っておきたいって思うかもしれないんだけど、喜びも捨てちゃえと。嘆きと喜びはセットだから、ぜんぶ捨てちゃっていいよっていう感じ。そういう感じ。」

や「おおきいのかな」

や「そうなんですよ、また有紀さんのイマジネーションが炸裂してて…そう来たか!みたいな。完全に途中、一番盛り上がるところが一番静かという。それが返って、あ、こうしたんだ!っておもって、なるほど!とおもって。盛り上がれ盛り上がれ盛り上がれ盛り上がれ~~~っ!!ぐらいなんじゃなくて、盛り上がれ盛り上がれ~~ピタッ。。。。 みたいなー。だからちょっと不思議な感じになってるというか。『荒れ野に舞い降り』のとこだね。『Ave~』っていうところで、ガ~ンッてもう有紀さんのその、、あーって。でもたしかにそのほうがいいんだなぁっておもって。」

や「有紀さんは前に私が1曲参加した、今回iTunesの手配とかをしてくれた永井さんがされてるFLAVOUR OF SOUNDっていうところのコンピレーションに参加したんだよね。それを聞いて、コンタクトして来てくれて、、探してくれて。で、有紀さんはいまプラネタリウムとかパビリオンの音楽作ったりしていて、一緒にやった仕事もけっこうあって、中越地震のメモリアル回廊っていうのが長岡にあるんだけど、そこの音楽を有紀さんがやって私が歌わせてもらったりとか、あとはラジオのCMとかも有紀さんの曲で歌ったりもしてるんだけど。で、なんか有紀さんすごいなぁっておもって。仕事だとたぶん有紀さんがホントにもしかして持ってる世界が…、私の曲で有紀さんが活かせるかって言ったらわかんないんだけど、もっと誰もディレクションとか入らない状態でやったら、どんな世界を聞かせてくれるんだろう、って感じでお願いしたっていうか。」

や「もう完全に。どういう風にしてもいいです。っていう感じで(笑)」

や「まる投げです」

や「有紀さんすごいよ~。こういう長い、5分とか6分とかの曲をアレンジするのは初めてだって言って、、で、すごい壮大にしてくれて」

や「そうだよね!」

や「わかる。1回もおんなじことをやってないっていうか。」

や「ホント、すごいなって思いました。有紀さんもホント『音楽』を作ってるひとなんだよね。当たり前だけど(笑)『音楽』を……作ってるひとだよ。」

ア・ゆ(笑)

や「でも、そうとしか言いようがないんだよ。」

や「そう。音の瞬間を作ってるっていうか、それにめちゃめちゃ正直に作ってるひとだなぁ~って。誠実に。真摯に。有紀さんはものすごい謙虚なひとだから、『私は音楽家で~』なんて言わないんだけども、すごく真摯にどの音も作ってるひと。常に。」

や「私もけっこう長い付き合いなんですけど、どんどんすごくなってるなっていう。」

や「そうなんですよ、もうすごい前なんで、歌がヒドイっていうか。もうね、ちょっとね、後半とかね、、、」


M10_愛の遺伝子

や「このアルバム、歌は基本的にじぶんの家で録ってるんで、もう何回でも歌えるから」

(アキノ注* スタジオ代のかからないじぶんちなら…ということです)

や「わけわかんない状態になっちゃってるのが多くて」(笑)

ア・ゆ(笑)

や「そう。もうそれ位録って。まぁ甲子園の高校球児みたいな感じで」

や「そういうことをたまに、暴発的にやるんですけど…。『なんか違う!!』っておもって。で、プレイバックして聞いてもわかんないよね、そんなんなっちゃうと」

や「でもね、100歌って抜けたヤツもあるもん。。」

や「この曲は、ガリホくんのギターでほぼ作ったような曲だから。最初打ち込みのギター、簡単なヤツが入ってて、それ聞いてもらって、で、弾いてくださったんでございますけども、ガリホくんに全体のサウンドのアレンジも頼んでたので、やっぱ、おまかせで。で、なんかリクエストを言ったような気もするんだけど、でも別にもうギター聞いたらこれでいっかって感じになって。うん」

や「ホントもう他の曲がボリューミーで、盛り盛りなんだけど。」

や「震災の時に毎日自転車乗ってたんだけど、なんかすごい幸せだなぁ~っておもって。今まで幸せだっていうことは、わー楽しい~とか、そういう時にね、感じたりとか、実感があったんだけど、あ、こんな何気ない生活がホントに幸せだな、っていうのを実感したひとたくさんいたとおもうし、実際それが奪われちゃった方がいたっていうのは……。 それで何も手助けすることができないっておもってるひとがいっぱいいて、私もそうだったし。Twitterとかで、いろんな、おもちゃとかを、送ろうとか、やったけど、そんなの気やすめで、そのひとたちの中から生きるエネルギーが湧いてこないと、やっぱりホントのね、はじまりっていうか、元気っていうのはないとおもうんだけど。でもたとえば義援金をね、送るとかみんな、あとごはん作りに行くとか、それぞれがおもいつくことをやって、、やって来たけど、そういう声っていうか、みんなの思いが届くといいなーって。」

や「亡くなってしまったひともたくさんいるんだけど、そういうのも、こう、もちろん胸の中ですごく痛い、悲しい出来事になってしまった方もたくさんいる中で、その思いから楽になれる日が来たらいいなーっていうか。それが悲しいものであったとしても、いのちっていうのは生まれてきたらかならず死ぬものだから、その中で、そんなに突然ね、消えてしまったいろんな思いたちがあったとしても、愛されてた記憶っていうか、愛があったっていうか、それだけ嘆くってことは、そのひとたちに対しての愛があったりとか、愛してくれてたんだな、っていうのが、あって、で、そういう時に、なんかホントにこう、感じるものっていうか。そういうのってもしかしたら、どれだけ慰めの言葉とかを言われてもね、そんなのお前にわかんないよ!って言われちゃうんだけど、たとえば風とかね、太陽の木漏れ日みたいなものとか、お花が咲いたりとかを見たときに、ふって、そういうのが溶ける瞬間もあるのかなぁって。もしかしたら誰かの思いで咲く花もあるのかなーって。そういうような歌詞です」

や「それも人間のことでもあるし、人間が作る物でもあるし。ホントに弱い、温かい水で満たした愛の容れ物っていうのが、人間だなぁーっていう、いのちだなぁーっていう。 人間が作るものがぜんぶそうだったらいいなーって、おもうよね。だから原発のこともこの歌の中に入ってるんだけど、原発も、人間が人間の為にしよう、って思ってね、たとえばそれがお金の為だって言ってるひともいるんだけど、お金の為っていうのも、その人にとっての、その人の為のものだから誰かの為に作った物だとおもうんだけど。でもそれですごく苦しめられてしまう人がいるっていうのは、すごく可哀想な存在としてこの世に作ってしまったわけで。物を作るのは責任があるよねーっておもって。愛の容れ物を作るようにこころがけたらいいのかなーって。うん。。」


M11_The Lovely Bones

や「そうですね。バンドで録音したんですね」

や「歌だけは別録りにしました。」

や「『ゆらふ』の中の『クリアー』って曲は歌も一発でやってみたんだけど、今回は納得行くまで歌ってみたくて(笑) けど、納得できないんだということがわかった。。今歌ったら違うものになるなと思うし。そこも含めて、まるで人生のようだ(笑)納得いかないけど終わりが来ることもある(笑)」

や「これは、堀越さんギター、CHACOちゃんドラム、鹿島さんベース、藤枝さんフルートっていうメンバーで、JUNちゃんっていうエンジニアのひとに、JUNちゃんの家のリハスタで録ってもらったんですけど。 お誕生日に作った曲で」

や「うん。だからいろんなこと、常に感じていることを詞にしたというか。生まれて来る時のこととか、考えるのとか好きで、なんでこの世に生まれてきたのかなーっていう感じで、でも毎回…、あ、前世があると仮定したとして、毎回はじめてなんだよね。」

や「毎回はじめての一生をはじめるっていうか。一回こっきりしかない人生をはじめるんだけど。だからそれがきっと誕生日なんだろうなーっておもって。『今までのすべてを忘れる日』っていう。でもその『夜には死んで朝に生まれる』っていうのは、ホントにそのとおりのことで、実際そうなんだとおもうんだよね。神話の時代の太陽はほんとそう思われていて、だから毎日が太陽の誕生日じゃないけど、朝に太陽が復活すると、古代人が『わーい』ってなって、で、夏至なんかは、彼らそういう暦に従って生きてたから、お祭りだったとおもうんだけど。」

や「ね。それって、なんでお祭りにするのかなっておもったら、じぶんの中に太陽があるんだなぁって、じぶんの中の光が復活するっていうか。だから一生の間に、何度でも生まれ変わるひともいるし。何度でも生まれ変われるっていうか。無責任に今までやってきたことをゼロってするんじゃなくて、新たな気持ちで臨むことができる、というか。で、それはたぶんすごい弱いものだとおもうんだよね。弱さがあるっていうか、それが素晴らしいなっておもってるんだけど、私は。」

や「なんていうのかな、こう、最初からバーンって強いわけじゃなくて。だんだん経験とか知恵がついてきて強くなるじゃん?それを一旦捨てて、やっぱり何もわかりません!っていう、真っ白い状態になった、若い、柔らかい、もの。」

や「そうそう。赤ちゃんもそうだし、なんにもじぶんでできなくて、何もできないけど、すごい周りを信頼してたりとか」

や「そう。あの人は大丈夫か?とか」

や「そう。すごい疑ったりとか。でも赤ちゃんはじぶんでなんにもできないから、周りを信頼するしかなくて」

や「そうそう。私はもちろん、そうやってね、毎日生きてる間に強くなるって、大事なことだとおもうんだけど、いつも、捨てる時には捨てられるっていうか。そのじぶんの知ってることとか、今まで起きたこととか、こうだ!って思ってきたことが、あれ?違うんだ…、ってなったときに、ポイッて、捨てちゃって、いいんじゃない? っていう」

や「そうそう。やっぱりそうだった。で、いいんだけど。だからそれが誕生日っていうか、そういう感じで。 タイトルは映画のタイトルからとったんだけど、ピーター・ジャクソン監督の『The Lovely Bones』っていう映画があって、悲しいような不思議な話なんだけど。ひとりの女の子が死んでから自分が死んだってことに気がつくまでのお話なんだ。」

や「じつはこの曲最初の歌詞は『きょうは死ぬのにちょうどいい日』だったんですよ。」

や「でも私は死ぬっていうことをそんな悪いことだとは思っていないわけであって。子供の時から、私の葬式にはみんなでお祭り騒ぎをしてほしいって言っていたので。ついに新しい場所に生まれに行くんだ!っていうことで、『ドンチャン騒ぎで花火とか打ち上げてほしいんだよねー』ってお父さんに話したりしてて、『わかった。お前が死ぬ時には花火とか上げて大騒ぎすることにする』って。」

や「そうなんだけど(笑) でもそういう風に感じていた部分があったので。でもまぁ一般的にというか、社会的に、みんな死ぬのは悲しいことだということになってるので」

や「そうみたいだね」

や「でも別に生まれるのも死ぬのもおんなじ意味なので。私の中では。じゃぁ『生まれる日』にしよう、っておもって」

や「そうですよね、わかりにく過ぎですよね」

最後に

以下、雑談をまとめました。
yayoi
==アルバム制作の経緯など==

や「すごい長い時間かかって作ったものなのかもしれないですね。意外と。震災の前から録りはじめてるので。レコーディング自体は2009年からやってる。2009年の、たぶん10月か11月には『惑星JEWEL』って曲ができて、次のアルバムは惑星JEWELだ!って騒いでたので。で、次の年の春には、このジャケットにもなってる、ののこちゃんの写真を撮りに行ってる」

や「そう。でもどうしても形になるパワーがなくて。私自身がやっぱり、どういう風に音楽を作って行くかっていうのがわかんなくなっちゃって」

や「震災もそうだし。でも自分自身もそうだったのかなーとおもう。やっぱりいろんな経験が必要だったというか。レコーディングは2011年にはほとんど完了してて、2012年にはマスタリングまで終わってるはず。 そしてその状態で、結局2、3年位…」

や「そう。私が車でかけて、わーいっておもってた。」

や「そうそう。でもけっこう好きなアルバムで、ホントによく聞いてました。自分の曲聞くなんて珍しいね、ってみんなから言われるんだけど。あんまり自分の音楽っていう意識がなく。そもそも作る時から『私が作りま~す!」って感じで作ってないから、うん。まぁ、聞くと、歌がヘタだな、とか、そういうのあるんですけど」

===

亀山ののこさんが撮ってくださった、この美しいポートレイト。ジャケットになる前にポスターやポストカードになっていました。そんなある日、ヤヨイちゃんが三重県で開催したワークショップに、ヤヨイちゃんに会ったことも歌を聴いたこともないのに東京からわざわざ参加してくれたともちゃんという子が、その時渡したポストカードをデコレーションしたものを、ある時ヤヨイちゃんにプレゼントしてくれたそうです。「これをデコるのが日課になっているんです。作っていると無心になれて。本当にありがとうございます」と言って。。まさに『惑星JEWEL』のスピリットですよね!

ヤヨイちゃんは、それを見たときに、自分が作ったものを作品の形で手放して、人を経ることで新たなクリエーションが生まれていく、ということを感じ、ジャケットのアイデアが浮かんだそうです。

そして、写真家の竹宮万里子さんのスタジオで、万里子さんと、ともちゃんと、3人でアイデアを出し合い、ヤヨイちゃんのお気に入りの額縁なども組み合わせて、ジャケットの写真になった、ということです。

『惑星JUWEL』がなかなかリリースできなかった原因のひとつに、ジャケットをどうしよう、という問題があったとのことですが、これでひとつ課題がクリアできました。

その一方で、去年の秋、たまたま知り合ったグランジロックのスリーピースバンドをやっている若者たちが「神殿の角」を聴いて、大絶賛。たいへん喜んでくれたそうで、ジャンルなどまるで違っても魂は伝わるんだなーと、まだ見ぬ誰かに届けられたら、と、大きな勇気をもらったそうです。

その時からおそらく布石は徐々に打たれていて、年明けに私から何回目かの『アルバム出さない?』という話をされ、『出そう。』と思えたとのこと。

===
や「恐れが何もなくなっちゃった。」

や「恐れがあった。やっぱり。出したところでなぁ、、みたいな。CD売れません、みたいな話しか聞かないし。」

や「そういうことをたぶんゴチャゴチャ考えてたんだよね。行き詰まってた。」

や「そうそう。でも良かったと思う。そういうことにちゃんと行き詰まって(笑)」

や「あとね、じぶんの中でシンプルになったんだとおもう。伝えたいことが。」

や「うん。。。 エネルギーかな。」

や「音を伝えたいっていうか。」

や「うん。音だなぁっておもう。前はそこにじぶんの思いとかが絡まってたから、それにひっかかってたような気がするんだよ。」

や「だって、音楽をやってて、歌ってるわけだから、私の、個人の思いは、正直どうでもいいっていうか。どんなことを考えてるかっていうより、その時に出した音にすべてが入ってるとおもうんだよね。出ちゃうと思うんだよね。だからその瞬間の音にじぶんが誠実でいるしかないっていうか。 あともうひとつ、おもってるのは、本当の意味でじぶんが『この音出したいな』っていう音を出していくっていうか、うん。今までやってきたことは、、、いろんな失敗も良かったし。」

(これは大事なポイントに思えました。おなじく歌う人間として、音そのもの、音楽そのものになった時に、本当に素晴らしい歌がうたえる、と、そこではじめて、じぶんの役割が果たせるんじゃないかと、私も思っています。音楽は魂から魂に届ける物なのでしょう、きっと、、)
juwel_yayoi2
===ここから、さらなる雑談です===

や「うんうん。

や「そうかな、、アキノちゃん聞いてそうおもう?」

や「笑」

や「どうなのかな、、。ホントこのアルバムは覚醒前っていう感じで。でもなんか懐かしく可愛くおもってる。 時間が経ってみたら『これはこれでいいんじゃない?』ってなって。」

や「それは私が設定してるラインが限りなく低いからであって(笑)私は、なんか、、あのう、、『これはこれでよかった』っておもえない物もいっぱいあるよ?(笑)だけどね、仕方がないっていうか。未熟でいいっていうか。」

や「私もふつうの人間ですから、みんなふつうの人間だから、たぶん完璧とかね、完全を目指してるとおもうんだよね、それが人間の姿なんだとおもうんだけど、あのう、、たぶん悟りっていうのがあるとしたら、『あぁ、できないんだ。。』っていう、、」

ア・や「笑」

===

長丁場に最後までおつき合いくださり、ありがとうございました。
このアルバムがみなさんの心のJUWEL、ジュエリーのひとつとなりますように。

新居昭乃

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